「教師を目指す学生が、学校現場を体験することのメリット・デメリット」 教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.47

学校インターンシップに行って教師になることを諦めようとしている学生

つい先日のことだ。
ぼくの講義が終わったあと、片付けをしているぼくのところに数人の学生がきた。
そしてこんな相談をしてきた。

教師を目指すのをやめて、一般企業への就職に変えようと思うんですけど、その場合、どの先生のゼミに入ったらいいと思いますか?」

2回生の学生は、もうすぐゼミを決める段階にきているので、最近よく学生が相談に来る。
ぼくの勤める大学は、一つのゼミに入ることができる上限が設定されている(8人程度)ので、学生たちが水面下で動き始めているようだ。

この学生も、おそらく(先生のところは一般企業でも入れますか?)という牽制球を投じてきたのだが、ぼくはそんなことよりも、なぜ「教職を目指すことをやめたのか」が気になったので聞いた。
すると、こんな答えが返ってきた。

「学校インターンシップに行って、教師になるの、無理だなと思って」

「無理」とは、向いていないと感じたのか、職業として魅力を感じなかったのか。

いずれにしても、学校インターンシップに行ったために教職を諦めようとしている。
これは、「早くに気づくことができてよかった」という側面もある。
もしかすると「向いていない」のかもしれない。

しかし、この学生は教師になりたくて大学に入学した。
そして2回生の段階で夢を諦めてしまうのは、早すぎて残念なことだ。

ぼくはこの学生に、「もっとゆったり、将来については考えたらいい」と話した。
3回生になって、教育実習に行って、それから考えてもいい。

「間に合いますか?」

と言う。
教員採用試験の勉強が間に合うか、という意味だ。

どうも大学は、早く将来を決めさせ、早く教員採用試験対策をさせたがる。
だから学生たちは、早々に「教職」か「一般」かの選択を迫られる。
そうして、優秀で教職に向いていそうな多くの学生が教師になることをやめてきた。

学校インターンシップは、2006年の中教審答申で、教員養成改革の重要なエレメントとして導入された。

インターンシップなど学校現場を体験する機会や、学校外における子どもとの触れ合いの機会、現職教員との意見交換の機会等を積極的に提供することが必要である。その場合、これらの活動の機会が、教職課程の全体を通じて、学生の学習状況や成長に応じて効果的に提供されるよう、留意することが必要である。特に、これらの活動が、単なる体験活動に終始しないよう、学生自身による体験活動記録の作成や、それを基にした討論を行うなど、省察的な活動を通して、質の高い学習が行われるよう工夫する必要がある。

「今後の教員養成・免許制度の在り方について(中央教育審議会 答申)2006年

そして2015年には、

「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」
~学び合い、高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて~

において、変わらず学校インターンシップの推奨が明確化された。

これらの取組は、学生が長期間にわたり継続的に学校現場等で体験的な活動を行うことで、学校現場をより深く知ることができ、既存の教育実習と相まって、理論と実践の往還による実践的指導力の基礎の育成に有効である。また、学生がこれからの教員に求められる資質を理解し、自らの教員としての適格性を把握するための機会としても有意義であると考える。

「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」
~学び合い、高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて~ 2015年

ここには、

「学生がこれからの教員に求められる資質を理解し、自らの教員としての適格性を把握するための機会としても有意義である」

とされている。
だがそうだろうか。

もしそのような重要な、学生の人生の道標となるような機会であるなら、受け入れ側の学校のインターンシップへの捉えと、送り出す大学のカリキュラムが重要になってくる。

だが、ぼくが知る実態はというと、学校側はインターンシップの学生を「ボランティア」として捉え、運動場の草むしり、運動会の準備の手伝い、ドリルの丸つけなどをさせたりしている。
もちろん、教師を育てようという高い志を持って取り組み、学生に情熱を持って指導する学校や教師もいるが。

大学はというと、曜日を決めて1日中学校に行かせ、必修科目の取り組みの一環にし、休んだと聞けばめくじらを立てるが現場で何を体験しているかは大して知らない。
本来であれば、インターンシップに行った翌日などにディスカッションの機会をもち、インターンシップでの学びを振り返り、深めるべきだ。
そのようなカリキュラムにしないから、先に紹介した学生にように、インターンシップで感じた壁を消化し、学びにすることができず、不満と不安だけ募らせてしまう。

ぼくは常に思っているのだが、学生には「夢」を抱いたまま教師になってほしいと思う。
とくに最近の学校現場はディストピア的な環境が多くなっている。

先日、教育実習を終えた学生はこんな報告をしてくれた。

「教育実習先の校長先生や担当の先生が、”教師になりたいの?やめておいた方がいいよ。大変だし、給料は低いし”と言われました」

教師に憧れ、教師になることを夢見る学生が、教育現場にいくことのデメリットが大きい。

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