災害時における教師たちのノブレス・オブリージュ ~そこにある「使命感」と「多忙感」~ 3 学校・教師と避難所
震災時における教師の役割とは
地震などの災害が発生したとき、教師の役割、学校の役割は果たしてどのようなものなのだろうか。
それは、法的にどのように整備されているのか。
この関心は、阪神・淡路大震災における教師の姿の記録に依る。
ある研究論文を作成しているときに出会った資料だが、そこには阪神・淡路大震災の避難所(小学校)での教師と被災者のやりとりが描かれていた。
平時はその小学校に勤務していた教師が、配給の列の整理業務にあたっていた。
列に並ぶ被災者が、その教師に声をかけた。
「あんた、そうやっている今も、給料が出てるんやろ。いいな、公務員は。わしらは家も仕事も失ったんや」
その声に、教師は心中で悲痛な叫びをあげる。
(私も、あなたと同じ被災者なんだ)
おそらくこの教師は、平時に勤務する小学校が避難所になったため、そこにいることが任務である意識だったのだろう。
それは結果的に、被災者の声のように「勤務」の様相であり、給与は発生していた(その整理業務に対する給与であるかはわからないが)。
しかし、その教師が避難所で、自身の家族や自宅(が例えば被災していたのであれば)から離れ、避難所で人員整理にあたっていたのは、災害発生時における教師の「職務」なのだろうか。
ぼくは、とある資料からそのような関心を強く持ったのだった。
そこでここから先は、災害発生時における学校、教師の役割について、法的な背景もエビデンスにしながら考えていこう。
避難所としての学校の存在
2011年に発生し、甚大な被害をもたらした東日本大震災は、多くの教訓を残し、その教訓は今なお整理されながら、形を整えながら国民の前に姿を現す。
そのひとつに「災害対策基本法」の改正がある。
東日本大震災後、2回の改正を繰り返す中、2013年6月の改正における「被災者保護対策の改善」で、「緊急避難場所」と「避難所」が明確に区別されることとなった。
「緊急避難場所」とは、
「市町村長は、…(略)必要があると認めるときは、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における円滑かつ迅速な避難のための立退きの確保を図るため、…(略)指定緊急避難場所として指定しなければならない」
災害対策基本法第49条の4(指定緊急避難場所の指定)
とされ、発生した災害から、住民が身を守るために一時的に避難する場所である。
多くの場合、学校の運動場や公園などが指定されている。
一方、「避難所」とは、
「市町村長は、…(略)災害が発生した場合における適切な避難所を避難のために必要な間滞在させ、又は自ら居住の場所を確保することが困難な被災した住民(以下「被災住民」という。)その他の被災者を一時的に滞在させるための施設をいう。以下同じ。)の確保を図るため、政令で定める基準に適合する公共施設その他の施設を指定避難所として指定しなければならない」
災害対策基本法第49条の7(指定避難所の指定)
とされ、被災した住民が一定期間滞在するための施設である。
内閣府の調査によると、各自治体で避難所指定している施設の形態として、小中学校・高校が全体の95.4%を占め、災害発生時の学校の存在の大きさが伺い知れる。
たとえ学校は指定避難所になっていなくとも、人々は学校を避難所として選択するのだろうか。その問いは、災害時における学校の役割を知る上で重要な問いである。
「阪神・淡路大震災における避難所の研究」(柏原ら、1997)では、「最初に避難した場所」調査では小学校が45%強を占め、2番目に多い中学校の10%強に比しても群を抜く。
そして「避難所の選択理由」調査では、「安全な場所だと思ったから」が35%強を占め、「避難方向の決定要因」調査では「とにかく目指している避難所へ向かった」(30%強)、「ふだん最もよく通っている道の方へ行った」(25%強)を示し、「避難所を探索した手がかり」調査では、「以前から道順を知っていた」が80%弱を示して群を抜いた。
同研究ではこれら調査結果から、「大半の避難者が“小学校”を避難所に選択したのは、小学校が地域に密着し、そして“安全な場所だと思ったから”、“自宅に近いから”、“避難所として指定されていたから”の3条件を満たすからである」と報告している。
これら先行研究から、災害時における小学校が担う避難所としての役割の大きさと、被災者にとっての期待の大きさは明確に示されてきたと言える。
学校は避難所という「場」として、大きく重要な機能を持つことはわかった。
では、そこに勤務(平時に)している教師の役割は、どのようなものになるのか。
次回は、災害発生時における教師の役割について考えていきたい。