学校での不審者対応訓練②

訓練でもミスは、子供の命に直結すると実感した瞬間

前回の続き。

では、初めての不審者対応訓練で、ぼくがどのようなミスをしてしまったのか話そう。

その前に、非常時における教員の役割について説明しておこう。
これは、それぞれの学校などでも役に立つはずだ。
教員は5つのグループに分ける。

① 本部
非常事態時、職員室が本部になる。
リーダーは校長。
随時流れてくる情報を整理し、指示を出す。
教頭や教務が、放送等で全体に情報を共有する。
「今、不審者が理科室前にいます。対応班は理科室へ向かってください」など。

② 災害対応班
非常事態が不審者侵入であれば、さすまたを持って現場に駆けつける。
火災であれば消化器。

③ 児童対応班
児童を守り、必要であれば移動させるなど判断して行動する。

④ 救助班
犯人が警察に確保され、児童対応班が体育館等に児童を移動させたあと、2人1組で不明児童や隠れている(怖がって)児童を探し、救助する。

⑤ 救護班
養護教諭を中心として組織する。
怪我をした児童や教員を適切に処置する。
AEDやBLS(1次救命処置)は必須。

これら役割分担は一つの例であり、最適かはわからないが、各校で工夫して組織すればいいだろう。

初めての訓練のとき、ぼくは児童対応班だった。
4月3日だったと思う。
児童が新しい学年を迎える前に訓練をするのが定例だった。
安全な体制を整え、教職員が児童を守る意識を高めた上で新年度を迎えようという意味があった。

担任をする3年生の教室で、授業をしているフリをしていた。

突然、同じフロアにある児童玄関で大きな物音がした。
「不審者だ!」という大声。
怒号と、不審者が机を蹴り飛ばす騒々しさ。

ぼくは直ちに、児童対応班として各教室の扉を閉めた。
すると不審者(不審者役教員)がぼくの目の前を、すごい形相で走っていった。

改めて言うが、不審者は毎日顔を合わせている教員だ。
それでも怖くて、ぼくは一瞬パニックになった。
そして、持っていた防犯ブザーの留め具を外して鳴らし、それを職員室の方に投げるという訳のわからない行動をした。

児童対応班は、教室に入らず、廊下で状況を見守りながら随時判断して児童を守る。
だからぼくは廊下にいた。
不審者は隣の、4年生フロアで暴れているようだった。

ぼくが不審者(役)となり、同僚教員を刺し
(ている演技)ているところ(関西テレビで放映)

その時、突然不審者がぼくの目の前に現れた。
同時に、同僚教員が不審者に飛びかかった。
まるでスローモーションのように、同僚が飛びかかっていくのが見えた。
ぼくは夢中で、一緒に飛びかかり、不審者の動きを止めた。

不審者が刃物を持っていたら、ぼくたち2人は命を失っていただろう。
しかし、そのことがミスなのではない。

訓練の最後はミーティングを行う。
それぞれのグループで反省点を出し合い、課題を共有する。
そのミーティングの中で、ぼくは蒼白となった。

「3年生の児童が全員、集合場所に現れませんでした」

ある教員がそう発言した。
ぼくは、不審者に飛びかかって動きを止める行動をした。
しかしその瞬間、本来の役割である児童対応を放棄したのだ。
だから、その役割を誰かに委ねなければならなかった。

児童を置き去りにしたのだった。

もちろん、児童のいない中で架空の児童を対象にしているから、想像の世界で動かなければならない困難はある。
それでも、児童を教室に置き去りにしていた。
しかも、不審者を捉えた現場の前で。

このミスでぼくは、訓練とはいえ、ミスは児童の命や不安全に直結するということを痛感した。

次回は、ぼくが研修講師をして出会った各校の訓練の様子について紹介したい。


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