コロナ禍の部活動と「同調圧力」②

大好きなテニスラケットを部屋にしまい、勉強に打ち込んだ結果、Tくんは目標とした大学に合格した。
そしてオープンキャンパスで「憧れた」その大学のソフトテニス部に、なんの迷いもなく入部した。
そのTくんの「憧れ」は、どのように崩れてしまったのか。

ルールと勝利至上主義と、「同調」

2020年4月25日。
Tくんが大学に入学してまもなく、3度目の緊急事態宣言が発出され、Tくんの所属するソフトテニス部は、大学の方針で活動中止という状態になった。

ちなみに、ぼくが勤務する大学の部活動も中止になっていたし、とある大学の部活動でクラスターが発生するなどしていた時期だった。
そしてちょうど、春季リーグ戦や新人戦など、どの部活動にとっても大切な時期だった。

Tくんはその時期、何度もオンラインで、部のミーティングに参加していた。

その中で、主将を務める先輩が、その部の外部コーチの考えを部員に連絡した。

その連絡内容とは、

”もうすぐリーグの入れ替え戦がある。
今年はどうしても勝利し、上の部に昇格したい。
大学のコートは部活動中止中だから使うことができないから、離れたエリアにある有料コートを借りて練習しよう。”

この、外部コーチのルール破りに、多くの部員が迎合した。
有無を言わせぬ連絡だったのだろう。

Tくんは強い疑問を抱いた。
そして、毎日悩んだ。

そのルール破りは、Tくんにとって容認できないことだった。
ルールを破って練習して、勝利したとしても、そこに価値はあるのだろうか。

しかし、部の雰囲気は外部コーチへの迎合だった。
疑っている様子もなかった。

毎日家で悩むうちに、Tくんの中である現象、心情の変化が起こっていた。

それは、「憧れ」の消失だった。

自分が憧れたものは、こんなにも程度の低いものだったのか。

恋焦がれた恋愛が一気に冷めるように、Tくんは憧れたソフトテニス部に愛情を抱くことができなくなった。

そしてTくんは、入部して1ヶ月で憧れたソフトテニス部を退部した。

大人の小さなエゴが、ひとりの若者の夢を壊した。

残念で悲しい出来事だが、ただ一つ、言えることがある。

Tくんは、ルールを破り指導者に迎合する「同調圧力」に屈しなかったということだ。
そのことは、Tくんの宝となるだろう。

今、中高の部活動の顧問について、教員が担うその役割に是非が問われている。
しかし、教員の働き方を見直すためだけの部活動問題ではなく、指導の方法や生徒への教育的影響についても、議論のテーブルに上がるべきだろう。
でなければ、教師ではなく外部人材が生徒の部活動を担ったとき、その任務にのめり込むあまり、あるいは自身が受けてきた部活動の体験の踏襲によって、Tくんが体験した悲劇が繰り返される懸念は拭えない。
今回紹介した部活動の実態について、目を向けておく必要があるだろう。

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