災害時における教師たちのノブレス・オブリージュ ~そこにある「使命感」と「多忙感」~ 11 避難所の開設と運営の実態①

避難所のトイレは誰が管理するのか

平成28年4月に発行された「避難所運営ガイドライン」(内閣府)は、災害時における避難所の「質の向上」を一つの目的として作成されている。
「質の向上」というのは、けっして避難所生活を贅沢にしようというものではなく、例えば高齢者や女性、子どものニーズを把握し、そのニーズに対応した避難所運営を目指す指針である。
避難所の運営において、その「質」に目が向けられるようになったのは、過去における震災、例えばおよそ31万人が避難所生活を余儀なくされた阪神・淡路大震災(1995年)や、47万人が避難所生活をする中で、その閉鎖まで2年以上を要した避難所の存在もあった東日本大震災(2011年)などが教訓となっているということは、言うまでもない。
過去における避難所運営の課題の明確化が、「質の向上」への視点を生み出したと言えるだろう。

では、避難所を運営する主体に目を向けたとき、「避難所運営ガイドライン」には、教員、あるいは教職員が割当てられている役割は見当たらない。
唯一、市町村災害対策本部・避難所支援班の中に、教育委員会が施設の事務局として明記されているのみで、各避難所の運営本部の中にも、教職員の文字は見当たらない。
たとえば災害時、避難所において大きな問題となるのがトイレの確保と管理である。
阪神・淡路大震災では、避難所におけるトイレの設置が間に合わなかったり、設置場所の問題で被災者が日常的に利用することができず(例えば暗くて怖いなど)、衛生面で大きな問題となった。
「避難所運営ガイドライン」では、避難所の運営におけるトイレの確保・管理の主たる業務担当者は、市町村災害対策本部の下水道担当職員と、浄化槽・し尿処理担当職員となっており、各避難所の運営本部においては、トイレの確保・管理の主担当者は「避難者(在避難所)」と明記されている。
しかし実態としては、熊本地震においては、避難所となった小学校の教員たちが、昼夜交代制でトイレの清掃に従事し続けた。

災害時における教師の「職業的役割」への着眼

前述の井手先生(益城町立広安西小学校の元校長、現在は山都町教育長)は、避難所運営において、トイレの清掃は大変だったと言っていた。
何しろ、地震発生直後に小学校への避難者だけではなく、隣に位置する大型商業施設に多大な避難者が集まった。

広安西小学校の掲示板に貼られていた画像。 多くの避難者が集まっていた様子がわかる。


その時点では市による避難所は開設されておらず、避難直後はその数千人が広安西小学校のトイレを使う状態だった。
避難所において課題となるのは、水と衛生面の確保だ。
井手先生は、小学校に駆けつけた教職員を交代制にし、24時間体制でトイレの清掃に当たった。
教師はここで、避難者のトイレ掃除に従事した。
おそらく、自身の被災状況もあったことだろう。

これが、「災害時における教師のノブレス・オブリージュ」ではないか。
だが結局のところ、阪神・淡路大震災からこれまで、災害時における教師の「職業的役割」については議論されてこなかったのではないか。

本シリーズでは、そこに焦点を当て、何らかの答えを導き出していきたい。

(次回へと続く)

Follow me!