教師と社会④ 「教員採用試験の倍率と社会」教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.14

本シリーズ「教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか」の前回投稿(No.13「教師とメディア」7月15日)では、メディアによる報道が教師の姿を極度に歪めていないか、という仮説をたて、報道の実態について探究した。
そこでは、「わいせつ教師」や「教師いじめ」などのセンセーショナルな報道(タイトル)が社会の教師像を必要以上に歪曲して造形しているのではないかという見方が可能だった。
しかし、それがすべてではもちろんない。
むしろ、授業をしていて実感するのは、学生はあまりニュースをテレビで観ることはもちろん、新聞は読まないし、ネットニュースは関心のある事象やジャンルしか取り入れない。
だから、メディアによる教師像の造形が学生に与える影響は、意外なほど小さなものかもしれない。
今回は、教員採用試験の倍率と社会の動向について、歴史を紐解いてみたい。

倍率はどのように低下して行ったのか

ちょうどこの記事を書いている現在(2021年7月)、2022年度採用の教員採用試験の真っ最中だ。
昨日も学生の1次試験の結果を聞いていたところだ。
順調な滑り出しにホッとしながら、学生がこんなことを言っていた。
「倍率が最低って話ですけど、教師になりたい私たちにとってはチャンスです」


その中、先日文部科学省は2022年度採用公立学校教員採用試験の倍率の集計結果について公表した。
そこでは、採用試験の倍率が過去最低の倍率(小学校で2.6倍)であったことがメディアでも多く取り上げられた。
その報道のタイトルは、


公立小教員の採用倍率、過去最低更新 長時間労働で敬遠(6月25日 朝日新聞デジタル)

というものだった。
まるで、教師の仕事が長時間労働で、それが倍率を下げている要因の全てであるかのような印象操作だ。
そして、倍率の低下が教職の質の低下に結びつくといった言論も聞かれるようになった。
【図6】は、2021年(令和2年)度教員採用試験の結果について、文部科学省が公開した際の資料である。

文部科学省 「令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント」(令和3年2月2日公表)https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20210205-mxt_kyoikujinzai01-000012559-10.pdf

ここからは、平成3年度の3.7倍という最低倍率に迫る3.9倍という低倍率だったことがわかる。
グラフを概観すると、1988年(昭和63年)から1991年(平成3年)にかけて、教員採用試験の競争率が4年連続で下降し、過去最低倍率の平成3年倍率を記録した。


思い当たるのは「バブル景気」である。
当時の日本を席巻したバブル景気は、一般的には1988年(昭和61年)から1991年(平成3年)にかけての51ヶ月間とされる。
したがって、教員採用試験の倍率が下降していたのはバブル景気の只中であり、バブル景気の終焉(1991年)に教員採用試験は最低倍率の3.7倍を記録したことになる。
当時のことを思い起こすと、ぼくはバブル景気が聞こえ始めた1988年(昭和63年)に高校を卒業し、その後教員養成系の国立大学に進学した。
表を見ると、ぼくの大学在学中に教員採用試験倍率は下降していき、1991年(平成3年)に最低倍率を記録した。
当時はそのようなことを意識したり、大学で話題になっているというわけでもなく、例えばぼくの仲間内でいうと1名が大手不動産会社に、1名が大手百貨店に、1名が国家公務員に、3名が小学校教員に、そして3名が留年して大学に残る(ぼくもその一人)という様相だった。

(次回に続く)


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