学校の反脆弱力④ 「日本人の危機に対する脆弱性の正体」

「どろぼう」と反脆弱性

カンボジアの首都プノンペンにある大学で研究を進めているときに、現地の学生から興味深い話を聞いた。

その女子学生(ここではkewoさんと呼ぶ)は「どろぼう」に被害を受け、怪我を負った。
いわゆる「ひったくり」だ。
kewoさんはアルバイトを終え、日が暮れてからバイクで自宅に帰る途中だった。
1台のバイクが接近し、kewoさんが肩から下げていたバッグを引っ張り奪おうとした。
「タスキがけ」にバッグをかけていたkewoさんは、バッグごとバイクから引きずり倒され、大きな怪我を負った。
バッグは盗まれた。
kewoさんは当時のことを苦々しく思い出しながら話し、当時怪我を負った部位の画像を見せてくれた。
その痛々しい画像は、kewoさんの中で教訓として残っているようだった。

そしてkewoさんはこのように言った。

「あの日以来、私は夜、出歩かないようにしています。あのあたりは暗くなったらとても危ない」

そしてkewoさんはこうも言った。

「女性は危ない。体も小さくて弱いから。男性はひったくりに遭いにくい」

kewoさんのこの言葉は、ある意味で日本における、あるいは日本人の危機に対する「脆弱性」を言い表している。
日本で「女性だから夜は出歩かない方がいい」というと、ジェンダーギャップのような受け取りがされるだろう。
「女性だから」という言葉はとてもナイーブで使いにくいものになっている。
性における社会的な多様性について論じることは重要だが、その論点がすべてのトピックのトータルな視点(たとえば力の強さ、体の大きさ、俊敏性、声の質や大きさなど・・・、じつはこれらは男性の危機に対する脆弱性を生み出しているとも考えられる)にまで汎用されることは、危機に対する脆弱性を生む(あるいは生み出している)可能性がある。
その意味では、kewoさんの話から想像するカンボジアの女性には、「どろぼう」という危機に対する「反脆弱性」を持つといえる。

タレブは反脆弱性antifragileの理論に中で、「三つ組」(トライアド)を提唱した。これは、あらゆる物事は「脆弱」「頑健」「反脆弱」の「三つ組」トライアドで成り立っていると言う理論である。かなり難解な理論だが、例を挙げてこの概念の理解を試みてみよう。

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