学校における危機管理とは-2. 学校危機と「働き方改革」の相反

大川小学校の津波事故訴訟の結果は、学校教育現場に少なからず動揺を与えた。
学校や教師の危機管理能力の必要性が認定され、その責務へのプレッシャーが学校現場を動揺させたのだ。
改めて、危機発生時は教師が適切な方法で子供たちの安全を守らなければならないと、強く認識することが求められたのだった。
だが一方で、教師の「多忙化」に対応した業務改善が求められている。
学校危機に対応することと、教師の業務改善は相反する様相がある。
その辺りについて検討してみよう。

大川小学校津波事故訴訟の結果と逆行するかのように、2019年3月、「学校における働き方改革に関する取組の徹底について」(通知)が発出された。
この通知は、「学習指導のみならず、学校が抱える課題は、より複雑化・困難化して」いるという現代の学校教育の状況について記され、「教員勤務実態調査(平成28年度)の集計でも、看過できない教師の勤務実態が明らかと」なったことが記された。
要するにこの通知は、「多忙化」が表出する教師の仕事の在り方を見直すことが目的であると考えられる。
したがって、基本的には教師の業務を減らす方向で改善が進められた。

その中で、学校における危機管理の関連項目としては、登下校時の対応については「学校外」の人材を活用して対応することが推奨されている。
したがって、登下校時の安全指導は保護者やスクールガードなどの地域人材が担うことが推奨され、実践されているのが実態である。
そしてこの項目に関する実施率は、2019年度調査で57.0%を示している(2020年度以降はコロナ禍による学校休業などがあり、対象外とする)。
一方で、スクールガードなどの地域人材はシルバー世代がその任務の多くを担っているのが現状である。
したがって近年、その高齢化による次代の担い手不足により、スクールガードの減少傾向が喫緊の課題となっている。
登下校における見守り手の減少は、たちまち児童生徒の、中でも小学校低学年児童の安全確保に大きな影響を及ぼす。
だがいずれにしても、登下校の安全については地域人材によるところが定着しつつあることが、現状から窺い知れる。

しかし、登下校の状況は「学校管理下」であることには変わりはない。
そこで危機が発生した時、地域人材は責任を負う立場ではない。
たとえば登下校時の略取・誘拐事件は毎年数十件単位で発生している。

2005年11月に奈良市で小学校1年生の女児が誘拐され、命を奪われる事件が発生した。
この時、女児は下校途中で、その時は1人だった。
近くに見守りの大人がいれば、事件は発生しなかったかもしれない。
だが一方で、見守り手からも不安の声が聞かれる。

「もし何かあったら、自分はどう責任を取ればいいのか」

たとえ登下校が学校管理下にあり、スクールガードにその責任が問われないとしても、自責の念に苛まれる可能性は否めない。
学校管理下である登下校時に発生する、児童生徒の安全を脅かす事件や事案という危機への責任の所在や危機対応については、学校の働き方改革とは相反の事項となっているという認識は置き去りにしているのが現状であると言わざるを得ない。

(次回へと続く)

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