「アジアの教師のスペシャリティー 〜教師が”聖職者”だった頃〜」 教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.77
前回(No.76)ではベトナムのダナン市にある小学校(Le Lai小学校)で聞いた話をもとに、アジアの教師事情について考えた。
もう少し、ダナン市の教師事情について整理してみよう。
ダナン市の海沿いの小学校で
ぼくたちは(このときのダナン訪問は、研究仲間の岡村季光先生〔教育心理学〕とともに行った)、Le Lai小学校の次に同じくダナン市内にあるNguyen phan vinh 小学校を訪問した。
この小学校は海沿いにあり、児童数は760人ということで、Le Laiほどではないが日本の多くの小学校と比較すると大規模校と言えるだろう。
ここでもダナン市の、あるいはアジアの教師事情を表していると感じられたのが、教員の男女比だった。
この小学校の教員数は50人で、760人の児童数に対してはこんなものだろう。
ただ、男女比は男性教員が6人で女性教員が44人という比率だった。
このことについてぼくは質問した。
「男性教師が少ないことで、デメリットはありますか?」
すると、校長先生は即座にこう答えた。
「もともと幼児教育だから、小学校教員は男性は少ないのです」
やはり、ここベトナムでは小学校教育は日本の幼児教育のカテゴリーに入るようだ。
そして、質問した。
「日本では、学校の教師は様々な種類の仕事で忙しくしているが、ベトナムにおける教師の現状はどうですか?」
すると校長先生は答えた。
「教師はかなり忙しいです。私たちの学校の教師はひとり当たり、1週間23コマの授業を担当しています。その他にも科目外活動や、保護者との担当なども行っています」
「私、校長自体も6:30~17:30まで学校に詰めていますが、副校長は常に職員室に詰めています」
前回のNo.76にはLe Lai小学校の板書写真を載せたが、文字を美しく書くことは教師の必須スキルだそうで、教師はかなり練習するらしい。
この校長先生のお話からも感じるが、ベトナムの教師はとても真面目で、熱心で、教師という職業に誇りを持っているように感じられた。
そこで校長先生に、「教師にとって大切なものは何か」について問うた。
すると、このような答えが返ってきた。
「専門知識の向上は言うまでもありませんが、まず第一に”子供は大切” ”子供がかわいい” と言う考え方や心が大切です。教師という仕事は、お金のためにするものではないと思います。ただ、給与が少ないことにはみんな苦労していますが・・・」
聞いていて、とても清廉な心持ちがした。
昔の日本の教師は、そうだったのかもしれない。
古い服を着て、ボロボロの靴を履いて、いかにも貧乏そうな風態だ。
でも、いつも子供たちに笑顔で接し、時には愛情厚い厳しさを出す。
給与が低いのに子供たちへの教育に惜しみなく情熱を注ぐ教師に、地域の人々や親は敬意を払う。
そして教師は、”聖職者”と言われた。
今の日本の教師が「憧れ」を喪失している現状の、一つの要素なのかもしれない。