「アジアの教師のスペシャリティー 〜ベトナムの教師と学生〜」 教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.76

前回、前々回はアメリカの校長、中国の教師のスペシャリティーについて見てきた。
今の日本の教師や教員養成の状況について思いを馳せたとき、以前訪れた発展途上国の教師や教師を目指す学生の姿を思い出した。

それはとても清廉で、心に残るものだった。

小学校教師であることの実態

まだコロナが世界を席巻し、当分は海外を訪れることができなくなるとは予想だにしなかったころ。
2017年8月にベトナムのダナンを訪れた。

ダナンには“東洋のハワイ“と称されるほど、美しい海と風光明媚な山々があり、観光地としても人気の高い場所だ。

ダナンでは、いくつかの小学校や大学、教育庁を訪問した。

小学校の教師たち

訪問した小学校の教師はみな「女性」だった。
それは一般教員も校長先生も。
そこには、ベトナムの教育事情が関連しているようだった。

変な話だが、ぼくは大学の教員、あるいは研究者として訪問しているから、とても歓待してもらったし、質問すればなんでも答えてくれた。

だが、実はもともと小学校の教師でした、というと、とても怪訝な表情をした。
当時(たった3年余り前)のぼくは、“もと小学校教師“であることを誇りに思っていたから、自身の前歴を言っていたのだと思う。
だが、その前歴を言ったときに、だれも感心した様子がなかったことを鮮烈に覚えている。

そこには、ベトナムの「小学校教師」の実情が関連していそうだ。

そこで、いくつかの訪問先で聞いたベトナムの教師、あるいは学校や教師事情について紹介しよう。

ベトナムの教師事情

ダナン市内のLe Lai小学校を訪問した。
海にも近く、ダナン市の防災教育指定校として選定されている学校で、教師の意識もずいぶん高いように感じられた。

対談には校長のLe Thi Hai Yen先生、副校長のVo Thi Thu Huong先生、文化交流(外貨)活動(おそらく日本でいう広報課)の担当Nguyen Duc Thuc Quynh先生の3名が対応してくれた。

主として防犯、防災教育についての話を聞いたが、ここでは教育事情についての話を紹介しよう。

Le Lai小学校は在籍児童数が1503名(訪問当時)で、翌年は1600名以上が予定されているということだった。

Le Lai小学校の教室。 とても丁寧に書かれた黒板の板書。教師の志の高さや熱心さが伺えた。

日本と比較して驚くほど多い。
ぼくがよく訪問するプノンペンもそうだが、小学校は午前と午後の2部制になっていて、子供が昼時に一斉に入れ替わる。
かつては学校以外に、子供たちは家の仕事を手伝うためという理由もあったようだが、この児童数を聞くと2部制にも頷かされる。
これだけ子供が多く、それに対して教師の数がとても追い付かないためだ。

そう。ベトナムも教師不足に悩まされていた。
なぜか聞いた。

まず、ベトナムの教師も日本と同じ地方公務員扱いということだった。

そして、ベトナムの教師は「昔はステータスが高かった」ということだ。
そして、今でもステータスは高い方だが「給与が高くないので、結局教師の道に進まない人が多い」
ということだった。

とくに小学校の教師はほとんどが女性だという。
教員資格は小学校の場合、高等大学卒業が要件で、これは日本でいう3年制の短期大学のようだ。
そして、4年制の師範大学を卒業した学生は高等学校へ就職する、ということだった。
これで、ぼくが元は小学校教員だったと言ったときの反応には理解ができた。

それにしても、なんだか現在の日本の教師事情と似ているようだ。
では、日本で問題視されていて、本ブログでも一つの大きな課題として取り上げてきた「教員採用試験の倍率」はどうだろう。

ベトナムの教員採用試験の方法は、まず学校単位で何人の教師が必要か(ほしいか)、教育局(市の教育委員会)に申請する。
そして採用人事が行われるが、当然予算等があるのでほしい数だけ採用されるわけではない。
また、定年は男性が60歳で女性が55歳ということだった。
退職教員が少ないため、募集もそれほど多くなく、新規採用は20人〜50人に1人の合格率ということだ。

ここで疑問が頭をよぎる。
ダナン市の教員採用の倍率は少なくとも20倍程度はあるようだ。
だが、それは「教師になりたい」という志願者が多いわけではなく、採用数が少ないために生じている現象だ。
そして、採用数が少なく、志願者も少ないのは、「給与が低い」ことに起因しているようだ。
これは、日本における保育士の課題と読む似ている。
給与が低く重労働だから志願者が少ない。
そして保育士不足が解消されない。

次回、もう少し海外の教育、教師事情を見ていこう。
これからの日本の学校、教師のイノベーションのヒントが見えてきそうだ。


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