奈良市小1事件から19年目を迎えて
〜「根拠」ある安心感を。新たな安全文化の創生に向けて〜

2023年11月17日は、2004年11月17日に奈良市で発生した事件から19年目の日だった。

19年前、下校中の小学校1年生、有山楓さんが誘拐され、遺体で発見される痛ましい事件が発生した。

奈良市(奈良市教育委員会いじめ防止生徒指導課)は毎年この時期に「子ども安全の日の集い」を開催し、私はそこで講演をしている。

今回のタイトルは、

「学校安全の教訓を伝承し、次代の命へとつなぐ学校危機マネジメント」

だった。
このタイトルは、9月に年次学会長として開催した日本安全教育学会第24回奈良大会のテーマと同じだ。

19年前に楓さんが被害にあった、登下校における連れ去り事件。
22年前に8人の子供の命が失われた学校への侵入事件。
歩道のない通学路での交通事故。

同じ災禍によって、子供たちの命が脅かされる事象が現在でも起きている。

なぜ、教訓を活かし、次代の命へと繋いで行くことができないのだろう。

最近、私が例に出すのは「航空機事故」と「学校安全」における「安心感」の比較だ。

1985年。520名の被害者を出した日航ジャンボ機墜落事故。
この世界最悪とも言われた事故以来、日本では航空機事故における死亡事故は発生していない。
航空機の事故で死亡する可能性は485万回の搭乗に1回だという。
だが、それが起こる確率は0%ではない。
それでも私たちは、飛行機に乗って海外や旅行に出かける。
そこには、「ちょっと怖いけど落ちないだろう」という安心感が生じている。

この「安心感」には「根拠」がある。
1985年の事故以降、日本の、世界の航空業界は再発防止に向けて、弛まぬ努力と工夫を続けている。
航空機の安全性の向上、パイロットのスキルや能力向上、企業コンプライアンスなど。

一方で、2001年の附属池田小学校事件や2004年の楓さんが被害にあった事件以降、学校への不審者侵入、連れ去り事件は現在においてもいまだに発生し続けている。
学校は門を閉ざさず、「開かれた学校」という曖昧な文化や「教員の多忙」という実情の前に、ただ「今、この学校に不審者は侵入しないだろう」という「根拠のない安心感」に日々を委ねている。

有山楓さんのお父さんが、19年目の手記を発表された。
そこには、被害者遺族の、決して癒されることのない痛みが綴られていた。
そして、

「今も、みんなを見守るために楓は飛び回っているのだと思います」

と綴られていた。

それは、楓さんが遺した教訓を生かしてほしいという願いに感じられる。

もう一度、目の前の子供たちを守る学校安全について、現状を見つめてみるべきだろう。
それは子供の命を預かる学校の、もっとも重要な役割だ。

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