埼玉県戸田市の中学校侵入事件について

2023年3月1日。
(またか)と思わされる事件が発生した。

埼玉県戸田市の中学校に、学校稼業中(試験中)に不審者が侵入し、持っていた包丁で教員を切りつけるなどし、現行犯逮捕された。

この事件で、2001年の大阪教育大学附属池田小学校児童殺傷事件が思い出され、ニュースでも取り上げられた。

私自身、事件後の当校で9年間勤め、遺族や事件後の学校安全と関わってきた経験、そしてそこから現在の研究者としての立場につながったことを考えると、とても残念な気持ちになった。

このような事件は、「どうすれば防ぐことができるのか」

研究者の視点で意見を記しておきたい。

事件を観察する3つの視点

 この(ような)事件を今後の安全へとつなぐために観察する場合、いくつかの視点が必要になってくる。メディア的な視点のみではただのやじうまでとどまってしまう。

一つめの視点
犯人は
17歳の高校生だったということ

この視点は、今回のような事件でまず第一に、そしてもっともセンセーショナルに取り扱われるメディア的な視点である。

犯人が17歳の高校生であり、「誰でもいいから殺したかった」という発言は、現代社会の病理的な一層を映し出していて、センセーショナルであるが故に関心が高くなる。

また、その関連は現時点では明らかになっていないが、事件現場の中学校の近辺では、多くの猫の惨殺死体が発見され、犯人の少年との関連性が問われている。
この事象は1997年の神戸児童連続殺傷事件を想起させ、人々を震撼させる。

いずれも、もっとも大きく取り扱われるメディア的視点だが、じつはこの視点がもっとも次の世代の安全に「生かされる視点ではない」

二つめの視点
教師が犯人を止めたこと

事件では60歳の教員が、素早く生徒を犯人から遠いところに避難させ、身を挺して犯人の侵入を防いだ。
この教師は複数箇所刺され、大きな怪我を負ったが命に別状はなかった。

とても勇敢な行動であり、適切な判断だった。
しかし、誰もがこのような行動をとることができるとは限らず、セオリーにはなり難い。

2001年の大阪教育大学附属池田小学校児童殺傷事件では、犯人による凶行が繰り広げられるさなか、職員室から飛んできた男性教師が犯人と直面した。

その教師は手ぶらだった。
そしてこの教師は犯人の足元にタックルし、犯人に、持っていた包丁で背中を大きく切られて重傷を負った。

教師の使命感は尊いものだが、教師にも家族がいて、愛する人がいる。
子供の命と、その重さを比較できるものではないはずだ。

したがって、この事件を振り返り、検証する時にもっとも重要な視点は、次の三つめの視点になる。

三つめの視点
授業中に学校に不審者が侵入したこと

この視点についても、2001年の大阪教育大学附属池田小学校事件を想起させる。
2001年の事件では、2時間めも終わろうとする10時くらいに犯人が学校に侵入した。
犯人は開いていた自動車通用門からいとも容易く学校に侵入し、授業中の教室に入って凶行を繰り広げた。

今回の事件でも、施錠されていなかった門から犯人は侵入し、容易く教室に侵入した。
そして、犯人は誰にも咎められることなく3階まで上がってきている。

検証するべきすべてはここにある。
犯人が学校に侵入することができた時点で、大きな被害を受け、子供たちや教師の命が脅かされる。

2001年の事件で、学校の「入口のセキュリティー」の重要性は周知されたはずだ。
にもかかわらず、20年以上経ったいまだに、同じような事件が発生している。

何度も言ってきているが、日本はもはや安全な国ではない。
学校に侵入し、子供に危害を加えようと考えている人間は、今でもどこかに潜んでいる。
学校は、子供たちを守るために自らが危険回避しなければならない。

その答えは、2001年の事件で明らかになっている。

学校に不審者を入れないこと

このために、学校、教師、行政、国はそれぞれができることをしていく必要がある。

このような事件で子供や教師が命を失う場面は、もう2度と見たくない。

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