「学校・教師のイノベーションへのいくつかの提言⑧〜「幸せ」と教育 〜」 教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.85

ここからは、「これからの学校の目的は何か」という問いについて考えていこう。

7. 学校を問い直す前に、国の姿を見つめてみよう

まず、なぜそのようなことを改めて問い直す必要があるのか。
それは、このシリーズのテーマである「教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか」という命題に迫るためということだが、それよりもさらに大きな枠組みで言うと、

日本は今、幸せな国なのか。

ということが挙げられる。

そもそも幸せというものは個々に感じるものだから、それを大きな枠組みで括ることには抵抗はあるが、漂う雰囲気というものがある。

ぼくは「学校安全・安全教育」が専門だから、子供の安全はもちろん、事件や犯罪にも常に目を向けている。
そして最近強く感じているし、講演でもよく言うが、もはや日本は「安全な国ではない」ということだ。
これまでも凶悪な犯罪はあったが、最近のニュースに「またか」という寂しい思いがするのは多くの人が感じているのではないだろうか。

また、日本における自殺者数に目を向けてみると、2019年から2020年にかけて、全体的な総数は増加している。
これはコロナ禍による影響も大きいかと思うが、「年齢階級別自殺死亡率の年次推移」に目を向けると、とても悲しい実態が浮かび上がる。

2019年から2020年にかけて、自殺者数の強い増加傾向を示したのは20〜29歳の年齢層だった。
これからの日本を担っていく若者が自ら命を絶っている現状に、しっかりと目を向けて考えていかなければ、この国は廃れていくだろう。

そして何よりも、2019年から2020年というコロナの影響は抜きにして、2016年あたりからずっと増加傾向を示しているのは10歳〜19歳の年齢層なのだ。

学齢期の子供たちが自死を選んでいる現状は、学校として看過してはならない。
あるいは、親はもちろん、教育者として看過してはいけない問題だ。

ぼくは大学教員だから18歳人口に注目するが、1992年の18歳人口は205万人だったが、2020年は117万人だ。
そして2032年には102万人まで減少すると試算されている。

国を支える働き手が減少するのだから、当然のように経済成長率は減じる一方で、今や日本は世界でも有数の貧乏な国だ。

かつてのアメリカ合衆国大統領のバラク・オバマは、2010年の第2回一般教書演説でこのような話をした。

「児童の成功に対して親に次いで大きな影響を与えるのは、教壇に立つ人々であるということを思い出そう」

オバマは、アメリカという巨大な国家の繁栄のためには、「児童教育」に勝利しなければならないと言った。
教育の重要性を改めて説いた。
そのためには、「教師」の役割が大きいのだということを言ったわけだ。
そして続けた。

「韓国では、教師は『国家の建設者』(Nation Builders)として知られている。ここ米国でも、教育者らに同様の敬意を払うべき時が来た。我々は、良い教師に報い、悪い教師に対する言い訳をやめたい」

国がまず、教師に敬意を払うという姿勢を示す。
日本では、教師の不祥事を取り上げ、採用試験の倍率低下を大々的に報道し、教師は「ブラック」な職業だと宣伝する。

そしてアメリカ大統領(当時)が若者たちにこう言ったのだ。

「今夜(一般教書演説を)聞いている若者のうち、職業選択を考えている人たちに言いたい。我が国の生活を良くしたいのなら、そして子らの生活を良くしたいのなら――、教師になって欲しい。国家は諸君を必要としている」

アメリカの教師事情は、給与も含めてまだまだ良くはない。
実は日本の教師の方が恵まれているといえるだろう。
しかし、待遇より何より、人は誇りを持って生きていかなければならない。
教師が、国の中で誇れる存在でなければ、自殺者が減り、18歳人口が増え、経済成長率は上昇しないだろう。
すべては教育にかかっている。

一人ひとりが「幸せ」を感じながら生きるための「学校」とはどのようなものだろう。
それが、「これからの学校の目的」になっていくのかも知れない。
引き続き、探究していこう。

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