「教育実習生を送り出す大学の役割と責任」 教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.41

「指導案」をどう教えるのか

ぼくが前職(国立大学附属小学校の教員)で属していた国立大学法人では、年に1度、教育実習担当者会議が開催され、大学の教育実習担当者と、各附属学校園の教育実習の責任者が意見交換を行う機会が持たれていた。
ぼくはその会議に、教育実習生を受け入れる小学校の教生指導部長という立場で何度か出席し、大学側と受け入れる学校園との間にある、教育実習に対する考えや意識の違いを目の当たりにしてきた。
当時の経験から言うと、教育実習生を受け入れて最も苦労することは、学習指導案の書き方を一から指導しなければならないことだった。
ぼくたちは6時間目まで終え、子供たちを返した後は毎晩、遅くまで指導案を書かせ、修正することを繰り返していた。
当時は(そんなものか)と思っていたのだが、教育実習生は3回生の段階で、指導案に関しては、その知識も技能もほぼゼロの状態で実習に送り込まれてきていた。

「大学では、実習の事前指導や講義で、指導案の書き方を教える機会はないのですか」

と質問したことがある。
その時の大学側の返答は、

「教えている先生もいれば、教えていない先生もいて曖昧になっている」

というものだった。

ぼくの現在の本務校では(どこでもそうだと思うが)、各教科の指導法などで指導案を書かせ、教育実習で「困らないように」はしている。
しかし、ここでも問題を孕んでいる。

一つは、教員によって指導案の体裁の「思い込み」が異なっていることだ。

ある教員は、指導案は「教材観」から記述するものだと言い、別の教員はそれに対してめくじらを立てて、指導案は「児童観」から記述するものだ、と言う(実際にぼくが出会った場面)。

そんなもの、どちらだっていいのではないか。
それぞれの思い込みは勝手にすればいいが、その価値の思い込みを学生に押し付けるから、学生はしんどくなる。
あの先生はこう教えたのに、今度は言っていることが違う、と。

さらには、散々教え込まれた指導案の書き方を携えて教育実習に臨むと、全く違う書式を指示される。
学校によって指導案の書式は違う。
ここで学生はさらに戸惑い、苦しむことになる。

指導案とはそんなものだ。
書式などにこだわりやプライドを持つこと自体がくだらなくナンセンスだ。

と、ぼくは学生に教えている。
そもそも学士過程における教員養成での資質形成において、学習指導案の役割がどの程度のものであり、その必要性も含めて議論と研究を深める必要があるが、それは別の機会にしよう。

大学の役割と責任

そしてまた、次のようなことを言う大学教員もいた。

「私共の学生が、附属学校園の先生方にご迷惑をおかけしている。そこで大学では、実習に行く前に指導案の書き方や板書に関する試験を行い、一定の基礎力を身につけていない学生は実習に行かせないという、ペナルティーの実施を検討しています」

中教審答申には、

“(指導の結果)十分な成果が見られない学生については、最終的に教育実習に出さないという対応も必要である”

中央教育審議会答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(2006年7月)

という文言はある。

しかしその周囲の文言には、

“教員を志す者としてふさわしい学生を、責任を持って実習校に送り出すことが必要”

“事前に学生の能力や適性、意欲等を適切に確認するなど、取組の一層の充実を図ることが必要”

“必要に応じて補完的な指導を行う”

といった文言がある。

教員を志す学生を持つ大学は、まず十分な指導や取組がされていることが必須なのであり、その上での「ペナルティー」発言なら理解できる。
事前指導に力を入れずに、ペナルティーはないだろうと思う。

そもそも、教育実習に行く時点で大学生の将来を閉ざすべきだろうか。

「教師への憧れと教育実習」教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.38』では、教育実習は、教員になる夢を醸成する場になるという側面も持つという内容のことを書いた。
この言葉は、多くの実習生を見てきた中から、そして自分自身の経験から来た言葉だった。
ぼくの学生時分は、優秀というには程遠い学生で、人生に頓挫しかねない状況の中で教育実習に行った。
だがそこで「憧れの教師」と出会い、子どもたちとの触れ合い、授業を計画し、実践することの楽しさ、教師という職業の重さと大切さを担当の先生方から見て取り、教師を志すという人生の大きなターニング・ポイントとなった。
あの時の教育実習がなければ、今のぼくはないと断言できる。
大学は、「ペナルティー」を学生に課すという考えの前に、教師を志す学生の将来や夢の責任を取ることができるほどの、質の高い、あるいは基本最低限の事前指導について修正、改善することが先ではないだろうか。

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