「教師の給与と仕事の満足度の関連」教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.22
前回(本シリーズNo.21)では、TARIS2018における「この仕事に満足している」との記述に「当てはまる」または「非常によく当てはまる」と回答した教員の割合について検討した。
そこでは、日本の教師の82%は「満足している」と回答したものの、じつは参加国・地域中、最下位の結果であったことについて述べた。
今回は、その要因について検討してみようと思う。
教師は「給与」に満足しているか?
日本の教師は、世界で最も「自身の職業に満足していない」ということの要因について、さらに【図7】(再掲)について、「給与」や「待遇」に着目して検討していこう。
日本の教師は、その給与に満足しているのか。
【図7】の「給与に満足しているか」という問いに対しては、右から4番目のグラフ、「校長の割合」を見ると、著しく下位に属する。
参加国・地域の平均が47%に対して日本の校長は29%で、ほとんど最下位に近いという状況だ。
この結果を見て、ある校長の言葉を思い出す。
ある小学校に、ゼミの学生の教育実習訪問に行ったときのことだった。
いつも30分ほど前に行って、学生の実習の様子についてお話しを聞くのだが、ぼくはついつい学校の安全や学校教育の現状について、関心あることを話したり聞いたりしてとても学びのある瞬間になっている(大抵の場合は)。
情熱的な校長先生は、この学生を教師にしたい、と言ってくれたりしてとても嬉しいときもある。
そのときの校長先生は、とても印象的な言葉をぼくに発した。
「今は、教師になんてなるもんじゃないですよ。校長の給与なんてどれだけ低いか!」
その言葉を発した校長の、不満に満ちた表情はよく覚えている。
この現状では、「教師が憧れの職業」であることは難しい。
だが一方で、教員においてはTARIS参加国平均より高くなっている。
左から3番目のグラフを見ると、「給与に満足している」教員は、OECD平均が39%に対して日本の教師は42%を示し、順位としては中の上といったところだろう。
しかし数字の見方の問題で、この結果(42%)から、半分以上の教師は給与に不満を持っていると解釈できるし、回答した教師の、各国の年齢にも左右されるだろう。
若い教師は、給与にある程度の満足感を持っているかもしれない。
たとえばこんな話を思い出す。
ぼくのゼミの学生たちは苦学生が多く、中には学費を自分で賄ってきた学生もいた。
シングルの家庭もやはり多くなってきている。
大学1回生のとき、父親が脳梗塞で倒れ、社会復帰もままならなくなった家庭の学生がいた。
彼は姉妹があり、自分が大学を退学して働かなければならないと思った。
ぼくは彼に、
「そのことによって今の目先の生活が少しは楽になるが、自身の将来も考えてはどうか」
「教師になれば生活も安定し、親を助けることもできる」
「4年間、奨学金で耐えて勉強し、教師になってはどうか」
と話した。
結果的に彼はそのようにし、公立小学校の教師になった。
卒業し、教師になってすぐの5月、誘ってくれて飲みに行った。
会計をするときに財布を出すと、
「先生、もう会計は済ませておきました」
と言った。
ぼくは少し涙が出そうになったことを思い出す。
たとえば、このコロナ禍で経済的に大きな打撃を受けた人も多いだろう。
だが、公立学校の教員で、コロナ禍によって経済的な不安(給与に限っては)を抱いた教師はいるだろうか。
コロナ禍だからといって、緊急事態宣言だからといって、そして全国学校休業要請だからといって、給与は減額されない。
そして、驚くほど若いうちにマイホームを持ったりする。
それが教師の給与の現実であり、実態だ。
ぼくの感触では、若いうちはある程度給与に満足しているが、校長やベテランになるほど不満が増幅するのかもしれない。
そこで次回は、「教員としての雇用条件」に着目してみよう。
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