コロナ禍の部活動と「同調圧力」①

前回まで、「同調圧力と大学生の人生」ということで、教師を目指すことをやめ、ユーチューバーになった学生のことについて話してきた。

今回は、コロナ禍で大学生になったある1人の青年と、その部活動について話したい。
そこには、コロナ禍の、あるいは指導者の圧力における悲哀と問題点がある。

憧れて入った大学と部活動

この物語の主人公をTくんとしよう。
Tくんは文武両道を絵に描いたような好青年だ。
真面目で信頼もあり、中学校でも高校でも、ソフトテニス部のキャプテンを務めた。

高校2年生のとき、夏休みの宿題として大学のオープンキャンパスに参加するという課題が出ていた。
Tくんは、父親が卒業した国立大学のOCに参加した。
幼い頃から、なんとなく父の通った大学に行きたいという希望を持っていた。

OCは大盛況で、2000人ほどの高校生が詰めかけていた。
Tくんは希望する学部の説明会に参加し、その後、一番の目的だった部活動の見学ツアーに参加した。
もちろん、ソフトテニス部が目当てだった。
コートで練習しているソフトテニス部の大学生を、数名の見学者とともに眺めていると、大学生が声をかけた。

「中に入って見ていいよ」

そして、大学生たちは高校生にとても親切に対応し、体験などさせていた。
そのとき、Tくんの心の中に、とても清らかで希望に満ちた、一つの「憧れ」が生じた。

(この大学に合格したい。そしてこの大学のソフトテニス部に入部して、この先輩たちとテニスがしたい)

Tくんは高校3年生になって部活動を引退し、同時にテニスラケットを仕舞い込んだ。
父親に、現役で合格したら新しいテニスラケットを買ってもらう約束をして、それから一切、テニスをせずに勉強に打ち込んだ。

おりしも、センター試験から「共通テスト」に変わり、記述式とか英語の民間試験とか、受験生が大いに翻弄された年だった。
しかし、Tくんはブレることなく、己の信念を持って勉学を続けた。

そしてTくんは、第1志望の大学に見事に合格した。
合格した翌日、父親とスポーツ店に行き、欲しかったラケットを買ってもらった。
Tくんはそのスポーツ店で、迷わず欲しかったラケットを手にした。
その姿には、受験勉強をしながらときおり、ラケットのスペックなどを調べていた健気な姿が垣間見られた。

2021年3月。
合格した大学のテニス部の先輩と、すでにLINEでつながっていたTくんは、入学前からテニス部の練習に参加し、充実した春を過ごした。

2021年4月25日。
Tくんの通う大学のエリアに、3度目の緊急事態宣言が発出され、部活動は活動停止になった。

その渦の中で、Tくんの「憧れ」が崩れていく出来事が生じようとしていた。

(次回へと続く)

Follow me!