「同調圧力」と大学生の人生について②

前回「同調圧力と大学生の人生について①」の続き。

学生の「個人の尊厳」

Nが4回生の6月になると、教員採用試験で周りはバタバタとしていた。
Nは、ゼミにも顔を出したり出さなかったりで、たまに顔を出してくれるとゼミが妙な雰囲気になったりした。
だがNは一応、某県の教員採用試験にエントリーしており、教員を目指すということになっていた。
もしその県を落ちたらどうするの?と聞くと、そこには祖母がいるから、そこに住みながら講師をして翌年再チャレンジします、と言っていた。
Nはもともと勉強がよくできたので、受験すれば合格するのではないか、とぼくは思っていた。

8月に入り、教員採用試験の1次試験の発表が続々と始まっていた。
1次試験に合格すると、学生たちは2次試験に向かっていく。
毎日のように、ゼミの学生から合否の連絡が入っていた。

Nが受験した自治体の1次結果は出ているはずだが、連絡がない。
大学の事務局からも「連絡がない」と催促された。

ぼくはNを大学に呼んだ。
久しぶりに会ったNは、顔色が悪く、明らかに痩せ細っていた。
「ちゃんと食べてる!?」
ぼくは合否よりも、それを一番に聞いた。
Nはニコッと笑いながら、「食べてますよ」と言った。

そして一緒に、大学の教職担当の事務局に行った。
ぼくはこのとき、すでにある思い(疑念)を持っていたので、Nには合否について直接聞かなかった(聞けなかった)。
だから何も聞かずに、「とりあえず事務局へ行こう」と言って彼と向かった。
事務局の担当は校長上がりのご年配。


「おお、Nくん。〇〇県の合否はどうだった?」
「いえ、まだ見ていなくて」
「そうか、今出てるから、調べるから受験番号教えて」
「はい、あ、携帯の電源が切れました。また調べて連絡します」

そのときぼくは、Nがかわいそうでならなかった。
だからすぐ、その場を一緒にでた。

大学生の個人の尊厳について考える。
合否は、絶対に大学に知らせなければならないのだろうか。
ましてや、個人の受験番号を知らせろとか、大学生の気持ちはどうなんだろう。

ぼくの研究室に入り、2人で向き合った。
そして思い切って、Nにぼくの疑念、予感をぶつけた。

「Nくん、◯◯県の採用試験は、本当に受けたの?」

彼は笑いながら、

「受けましたよ」

と言った。
もうそれで分かったので、2度とその話はしなかった。
翌日、NからLINEで、

”◯◯県の1次試験は不合格でした。来年、講師をします”

とのメッセージがあった。

次回へと続く。

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