災害時における教師たちのノブレス・オブリージュ ~そこにある「使命感」と「多忙感」~ 18 被災地の教師へのインタビュー②

教師へのインタビュー

被災地の教師へのインタビューの日、ぼくたち(松井・岡村先生)は一つの教室をお借りし、お一人ずつ入ってこられる教師にインタビューした。
どの先生も授業や業務の合間に時間をとってくださり、インタビューにとても誠実に、真剣に答えてくれた。

〇教職8年目の教師(男性)

「あまり身体的、精神的につらいというのはない。そのときは、目の前がいっぱいいっぱいで、食欲もなかった。欲というものがなかった。本当に、目の前の仕事、運営面が大変で。動くこと、考えることがいっぱいで」

〇教職28年目の教師(男性)

「忙しいことで気を紛らわせてきたのだろう。そういうことを言っている場合じゃなかった。授業のこと、給食のこと、登下校のこと、親との連絡。落ちつかない子どもも多かった」

〇教職38年目の事務職員(男性)

「学校ではおかしなこと(姿)はできないから、家族に口調が悪くなった。いかんとわかってはいるんですが、実はする。その都度、後悔する。職場で何人かに相談した。怒鳴ったりしたんだよね、とか。うちもありましたよ、とか」

〇教職23年目の養護教諭(女性)

「ずっと突っ走ってきている感じで。振り返るのが怖いというか。いつもと違う自分というか、なんか気張っているという自覚はあった。息つく暇もなかったというのが事実」

〇教職27年目の音楽専科(女性)

「地震直後から、咳がずっと止まらなかった。病院にも行ったけど、原因はわからず咳止めを飲んでいただけ。3か月間、止まらなかった」

〇教職29年目の支援学級担当(男性)

「今までの例から、ストレスなど、後から出てくるとずっと聞いていたので、8時から17時までという自分のスタンスで、できるだけ無理をしないように心掛けた」

熊本を訪問するたびに、必ず熊本城を訪れた。 そのたびごとに、変化が見られる。
熊本城は、復興のひとつのシンボルではあるだろう。

インタビューから見出される課題

インタビューの回答を聞きながら、目の前がいっぱいで、そのことによって身体的、精神的疲労や苦痛を感じていないと言う点に、ぼくは不安を覚えた。
阪神・淡路大震災でも、被災して5年後に、子供も含めて種々の症状が出たという報告がある。
そのことを鑑みて、ぼくたちは熊本地震における教師について、震災後3年、5年の経年調査を実施しているところだ。
しかしこの時点では、「忙しくて辛さを感じない」というように、「外傷的出来事に関連した思考や感情を回避しようとする努力」(精神疾患の診断・統計マニュアル Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 米国精神医学会)強烈な形で作用している様相が見られた。
そのことは、奇しくも最後のインフォーマントの回答に現われているように、後に明確なストレス症状として表れることが危惧されるのだ。
したがって、引き続き教師への調査を続け、災害時における役割、起こり得る混乱、発生し得るストレスを明確にして、今後の災害へとつながる研究としていかなければならないと、ぼくたちは決意を新たにした。

(次回へと続く)

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