教師と社会⑤「教師の需要と供給」教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.15

前回の投稿(「教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか」No.14)では、バブル景気と教員採用試験の倍率の関連など、倍率と社会の情勢の関連に注目した。

倍率の「本質」

1991年(平成3年)のバブル崩壊後以降、急激に教員採用試験の倍率が上昇していく。
この要因として、バブル崩壊後の不安定な世相から、安定した教員等、公務員への志向が強くなったという見方をしてしまいがちだが、それは早計だろう。
教師の需要には、「出生数」「採用者数」の要因が大きく関連する。
山崎(2018)は、「2020年代から2030年代中葉までの期間に想定される教員需要の大幅減少にどのように対処すべきかを考察」することを目的とした研究の中で、

「教員需要の周期的な変動は、教員需要を決定する2大要因である児童生徒数の増減と教員退職者数が周期的に変動しているから起きる。
教員需要は、出生数が増加(減少)すれば,数年後には児童生徒数が増大(減少)し、その結果、教員が必要(不要)になり、教員採用が増加(減少)する。
また教員が退職すれば欠員補充のための教員需要が発生する。
退職者数は教員の年齢構成の影響を受けており、大量採用時に採用した若年教員は30数年後には定年退職し、再び大きな教員需要が発生する」

山崎博敏 2018 「戦後における教員需要の変化と国立教員養成学部の対応」 広島大学学術情報リポジトリ

と指摘した。

採用者数でみると、【図6】(7月16日投稿「教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか」No.14を参照)に見られるように、採用者数は1980年(昭和55年)をピークに若干の減少傾向が続くが、1991年(平成3年)までは教員の大量採用時代が続いたと見ることができるだろう。
一方、出生数でみると1974年の第2次ベビーブーム以降、出生数は減少の一途をたどり、したがって児童生徒数は減少傾向が続いている。
つまり、大量採用時代の1970年代後半から1980年をピークとしたその前後の採用者は、2020年(令和2年)前後に退職期を迎える。


現在の教員採用試験の倍率低下の一因として、大量退職時代による採用数の増加によるものが挙げられるだろう。
児童生徒数が減少しているにもかかわらずである。
したがって現在の教員採用試験の現状を分析すると、大量採用時代の退職者が多く発生している現状の中、それを補充する必要から教員採用者数は増加している。
児童生徒数は減少しているので、過去における大量採用(1980年で46000人)の数までは需要は届かない(2020年で35000人)。


その一方で、2013年(平成25年)あたりから採用試験の受験者数が減少傾向にある。
したがって、採用者数は増加しながらも受験者数が減少しているため、年々倍率が低下しているということになるだろう。
また、もう一つの視点で【図6】をみたとき、1980年(昭和55年)から1992年(平成4年)まで、受験者数は急激とも言える減少傾向であり、同時に採用者数も減少傾向にあり、ともに減少しながら倍率が低下している。


つまり、教師需要も教師供給もともに減少している、ある意味で自然な市場原理である。
一方で2013年(平成25年)以降は採用者数は増加傾向にあるが、受験者数は減少傾向にある。
その結果、需要(増加)と供給(減少)が近づきながら倍率が低下しているという様相であり、1991年(平成3年)に記録した最低倍率3.7倍と、2020年(令和2年)の3.9倍は、それが意味するところが違うのだという解釈が必要なのである。

(次回に続く)

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