小学校での防犯教室で見えた「刷り込み」
「知らない人にはついていかない」とは具体的にどうすることなのか
先日(6月22日火曜日)、ある小学校で防犯教室の講師を務めた。
これは毎年実施している取り組みで、ぼくが1年生、3年生、5年生に3時間にわたって防犯に関する授業をする。
大学教員になって、子供に授業をする機会はほとんどないので、毎年楽しみにしている取り組みだ。
内容は、1年生は「あんしんして とうげこう」、3年生は「こんな時、どうする?」、5年生は「命を守る判断」と言うタイトルで実施している。
ここで全てを紹介することはできないが、とくに1年生の授業の様子について紹介しよう。
「あんしんして とうげこう」の授業の流れとしては、
①1年間の連れ去り事件の様相について、表にして紹介する。
これは警察庁の統計を表にしたもので、0歳から12歳までの連れ去り事件(事案)を年齢ごとに表示したものだ。
この表を1年生に紹介する理由は、6歳、7歳になると急増する連れ去り事件・事案を知り、「自分たちの身に降りかかるかもしれない」という感覚を持たせ、学びの意欲へと結びつけるためだ。
②「知らない人にはついていかない」という体験
次に、子供たちに「◯・・・にはついていかない」と言えば、◯・・・には何が入るでしょう?と投げかける。
すると、方々から「知らない人!」と言う声が上がる。
たとえそうではなかったとしても、「不審者」や「犯罪者」「怪しい人」などの声が上がる。
これは、子供たちが「いかのおすし」(知らない人にはついていかない・知らない人の車にのらない・おおごえを出す・すぐ逃げる・しらせる)を「教えられている」あるいは「覚えさせられている」からであり、「理解している」からではない。
「知らない人にはついていかない」という言葉には、幼い児童には言葉だけでは理解しようのない二つの難題が存在する。
「知らない人」とはどのような人なのか。近所の人とわかっているが、名前は知らない人は「知らない人」にあたるのか。それは知っている人だから、ついていっていいのか。
最近では、「近所の知っている人」による犯罪もある(2017年千葉の事件など)。
ふたつめの難題は、「ついていかない」とはどのような行動を指し、どう行動することなのか。
実は、それが難題であることを、大人が気づいていない。
そこで体験的な学習の場を設定する。
③場面から考える。
ここで子供たちに、ひとつの場面をイラストとともに提示し、その時どのような行動をとるか考えさせる。
小学生が1人で歩いている。そして、女の人が道端で、お腹を押さえて座りこんでいるイラスト。
「お腹が痛くて。すぐ近くだから、荷物を一緒に運んでくれないかな」
その時、どうしますか?と問いかける。
事前に配布しておいたワークシートに、自身の行動を書かせる。
子供たちが書いている間、急足で机間を回りながら60人ほどの記述にざっと目を走らせる。
「逃げる」「無視する」「大声で叫ぶ」・・・。
ここで思う。
学校は、私たち大人は子供たちに、「知らない人にはついて行ってはいけません」と教えているが、別の場面(道徳的な)では「困っている人は助けてあげましょう(親切にしましょう)」と教えてこなかったか。
④ロールプレイ
「発表できる人!」「前で一緒にやってみよう」
子供たちは我先にと手を挙げる。
「逃げる」と書いた子を指名し、前に呼んだ。
お腹を押さえて頼み事をしている人に対し、どうやって、なぜ、どのような考えで「逃げる」のだろう。
ぼくがお腹が痛い人の役割で演技する。
「荷物を一緒に持ってくれないかな」
するとその児童は、「逃げ」なかった。
「うーん」
と困った表情を浮かべながら。
子供は根に、汚れていない「優しさ」を持っている。
その優しさを奪いたくない。
本当にできる安全な行動とは何か。
「知らない人についていかない」ことの難しさを学ぶことが大切だ。
このような授業、考えの詳細について、拙著に詳しいので紹介しておくことにする。