「教師像のイノベーション」教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか No.1

プロローグ

「教師はなぜ、憧れの職業ではなくなったのか」
このテーマは、ぼくの中でずっと燻っていて、いつか研究し、検証して考えを述べていきたいと思っていたテーマだ。
目の前の学生たち、ぼくのゼミから教師になった新任教師の姿には「迷い」がある。
「教師は、いい職業なのか」
という明快な問いがそこにはある。
ぼくが小学校の教師をしていたとき、そのような迷いは寸分もなかった。
教師という職業は、憧れと、やりがいと、満足感に満ちていた。
もちろん、今と同様に勤務時間に際限はなかったし、「多忙感」は常にあった。
だけど、「多忙感」を「使命感」が凌駕していた。
今は違うのだろうか。
教師を目指していた学生が、あるいは、教師としての資質を備えた学生が、教師を志さない。
それが今の現実だ。
それはなぜなのか。
検証するべきだ。
それがこのテーマに取り組む理由だ。
では始めていこう。

教師像のイノベーション

はっきり言おう。

あなたがもし、教師を目指す学生なら、あなたの大学で「教師とはこうあるべきだ」と熱弁を振るう言葉には、感心したふりをして聞き、ほとんど聞き流すほうがいい。

あなたがもし、新任の教師なら、「自分の時はこうだった。だから君は、それを覚えなさい」と指導するベテラン教師や管理職の言葉は、半分だけ聞いて、あとは時代に合わせて柔軟に対応したほうがいい。

あなたがもし、学校に通う子を持つ親なら、子供は教師が育てるのではなく、親が育てるのだという意識を改めて持ったほうがいい。

こんなことを言うぼくの言葉に対して、あいつはなんてことを言っているんだ、という密やかな言葉が聞こえてきそうだ。
しかし、そうなのだから仕方ない。
もちろん、ベテランの教師や元校長で定年後に大学の教採対策室に所属し、学生指導をしている人たちは、多くの経験値をもち、それを学生たちに余す所なく授けようとしている。
しかしその経験は、先輩方が40年前に教えられ、それを頑なに守り抜き、醸成してきたものである。大変貴重な経験からくる知見だが、これからの教育に必要かどうかは別である。
「教師とはこうあるべきだ。教師とは、こんなに素晴らしい職業なんだ」
と説かれた私の目の前にいる、教師を志す有望な若者たちが、教師という職業に憧れを持てずに迷っている。別の職業のほうが、自身が輝きそうだと。
大学で、教師とは「見本」となるべき存在だから、実習や訪問に行くときには髪を黒に戻して行きなさい、と、完璧な茶髪の教員に言われ、内心では毒づきながらスプレーでとりあえず髪を黒くする学生たち。つまらないことばかり教えるから、教職の真髄が伝わらない。社会は変わり(目まぐるしいほど早く)、子供はその変化に素早く順応し、学校や教師は旧態依然としている。

学校や教師は、もっともイノベーションから遠い存在ではないだろうか。変化や進化を恐れ、「不易」の価値を重んじる。「不易」は重要だし、後継に重要な示唆を与えることは否定しない。ただ、伝える、学ぶ必要のある「不易」であればの話だ。今の教育界の現状は、「昔の教育はよかった」が前提のような気がする。だから教師を目指す学生や、新任教員のところで摩擦が生じ、教職への「憧れ」を色褪せさせている。

もうやめよう。そのような不易は、もはや不益だろう。

カンボジアで「授業」をする学生 広い視野と体験が教師像をイノベーションする、

ましてやこのコロナ禍である。
いま、学校教育は歴史に残るターニング・ポイントに立っている。2020年3月に全国一斉の学校休業要請が発出されて以来、学校にとってたくさんの「できなくなったこと」があった。
卒業式ができなかった、入学式ができなかった、遠足がなくなった、修学旅行がなくなったり近場に変更になった、運動会が全体でできなくなった、参観日がなくなった、みんなで向き合って、おしゃべりしながら給食を食べることができなくなった・・・。
これだけを見ると、学校教育のディストピア化が進んでいるようにも感じられる。しかしそうだろうか。本当に、運動会は必要だったのだろうか。それは、子どもたちに何を学ばせてきたのだろうか。「団体で一つの物事に取り組み、子どもたちがキラキラ輝くから」というロマンだけで教育を語ることは時代が許さなくなっている。
このターニング・ポイントに、これまでの学校教育の曖昧さを洗い出し、検証し、変化させ、また教育をロマンで語れる日を迎えよう。大きなことを改めて見直し、変化させるという、大掛かりなカリキュラム・マネジメントのチャンスなのである。そう。これまで、当たり前だと思っていたこと、効果があると思い込んでいたことを検証し、見直し、変化させる、学校教育のイノベーションのチャンスなのではないだろうか。

次回に続く



Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です